保険とテクノロジーが描く未来。

クリエイティブディレクター 原田 剛志

私たちを取り巻く社会や環境が目まぐるしく変わる中で、未来をどんな風に想像していますか?

新型コロナウイルスの影響などで、少し先の未来さえも予想するのが難しくなってしまった今、たとえば2040年の社会の姿を想像することなんて誰にもできないのではないか、と思うかもしれません。

そんな中、未来に起こりうることを予測し、「保険」と「テクノロジー」の力で将来の暮らしをつくろう、と発信する会社があります。

三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保などの保険会社を束ねるMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社(以下、MS&AD)は、保険会社の役割とは、未来のリスクを見つけ、その発現を防いだり、影響を小さくしたり、起きたことに対して経済的な負担を小さくすることであるとしています。

これを伝えるために、MS&ADは2018年に未来を描くTVCMを放送。この広告は、新聞シリーズ広告、WEB記事と合わせて社会的意義の高い広告として日経広告賞を受賞するなど、大きな反響を呼びました。

それから3年経った2021年10月。MS&ADは新たなTVCMの放送を開始しました。AIやIoTなどのテクノロジーが、私たちの暮らしを支えている未来が描かれています。

一体どんな未来を予測し、どんなメッセージをCMに込めたのか、このプロジェクトを担当したクリエイティブ・ディレクターの原田氏に、新CM制作の裏側や込められた思いを聞きました。

(構成:都田ミツコ/編集:吉田恵理/取材・編集:くいしん

クリエイティブディレクター、コピーライター
原田 剛志 / Tsuyoshi HARADA
1982年、埼玉県出身。法政大学経済学部経済学科卒業。2004年、株式会社アド・エンジニアーズ・オブ・トーキョー入社。2013年、クリエイティブ コミュニケイションズ株式会社レマンに入社。2015年から株式会社セイタロウデザインに勤務。新聞、雑誌、交通メディアなどのグラフィック広告の制作を中心に、テレビCMやラジオCM、カタログ、Webサイトの制作などを手がける。受賞歴は、日経広告賞、日経BP広告賞、日本ユニセフ特別賞など。

「さあ、いいほうの未来へ」を進化させる

── なぜ3年ぶりに続編が制作されることになったのでしょうか?

クライアントの社内外で高く評価していただけた前回のCMでしたが、長く使ったので新しい展開を考えたいということでご依頼いただきました。

実は2020年の段階で制作が動き出していたんです。しかし新型コロナウイルスの影響で延期になり、落ち着いてきたタイミングを見計らって進めることになりました。

── 続編のテーマについて、どう提案していったのでしょうか?

前回も今回も、保険商品を売るという事業的な側面ではなく、グループを束ねるホールディングスとしての視点を伝えることを目的としています。

従来の保険会社のイメージは「起きたことに対して補償をしてくれる」というものですが、ホールディングスとして伝えるべきは「リスクを見つけ、伝える」という取り組みを行うことでも社会に貢献している会社であることだと定義し、前回のCMを制作しました。

続編ではそのテーマを継承しながら、さらにメッセージを進化させることを提案しています。前のシリーズでは今起きている課題と、それを乗り越えた先のよりよい未来の2点を描いていましたが、「どうやって、よりよい未来を実現するのか」までは伝わりきっていないところがありました。

そこで今回は、理想の未来を実現するためにMS&ADが行っている活動について具体的に描くことになりました。具体的には「インシュアランスイノベーション」をテーマに、新たなテクノロジーを取り入れながら保険会社の役割が変化していることと、その取り組みを積極的に紹介しています。

保険は未来を後押しする勇気

 

── CMに盛り込む内容はどうやって決めたのでしょうか?

ここ2年くらいの日経新聞に掲載されたMS&ADに関する記事や、プレスリリース、発表会での内容などを精査し、テクノロジーに関係しそうなものをピックアップしていきました。そこからCMの映像として、伝わりやすい事例や、未来の広がりが見える事例を抽出しています。

ひとつ目はAIを活用した健康管理です。具体的なサービスとしては、健康管理アプリを企業に配布し社員に使ってもらうもので、サービスを活用されている企業は保険料を割引するなど、テクノロジーと彼らの本業である保険を組み合わせながら普及を促しています。

今回、すべてのサービスは未来の風景として表現しているので、このサービスはCM上では人をスキャンするような映像になっています。

── ふたつ目は?

「テレマティクス」という技術によって、自動車事故を未然に防ぐ取り組みです。たとえば現在は運転の様子を記録して、高齢者に「少し運動能力が落ちているかもしれません」という結果を送ることでご本人が運転を控えることを考えたり、ご家族が運転免許の返納をアドバイスするような取り組みを実施しています。運転が客観的に評価されることで事故を未然に防ぐことができるんです。

未来では、その技術を活用することによって、自動車同士の通信を使って、自動運転を実現するための後押しができるようになる、という形で描いています。

最後は、天候を先読みして災害の影響規模を最小限におさえる技術です。これは現在、MS&ADが大学と共同で「LaRC-Floodプロジェクト」という気候変動による洪水のリスクなどを事前にシュミレーションするシステムを芝浦工業大学や東京大学の研究グループと共同で開発しているものになります。

── どれも未来で実現したらより安心して暮らせる社会になりそうな取り組みですね。CM中盤で出てくる緑豊かな街並みも印象的でした。

これは「グリーンインフラ」、つまり、樹木などの自然を生かした災害に強い街づくりをイメージしています。たとえば遊歩道の一部を緑地化することで、大雨が降っても土に雨が染み込み、雨水の氾濫が起きづらくなるような仕組みを作っています。

── 絵づくりでこだわった部分はありますか?

未来の話を絵空事に捉えられないように、実際に彼らの取り組みが社会を動かしているイメージを後半に入れました。工事現場で安全確認している様子や、気象台で働いてチェックをしている人の姿を入れています。

もうひとつ、MS&ADの化身のような存在の少女が登場するのですが、彼女個人の魅力に頼らずに存在感を際立たせるために、周囲の人々とは別撮りをして再生速度を変えています。そうすることで彼女だけ周囲の人とは違う時間軸で動いているように見えるんです。ドローンで撮影したのですが、少女と周囲の人の映像を2〜3回重ねて撮ったのでものすごく大変でした。

コロナ禍でもブレない未来像を共有

── コロナ禍を経たことによって、メッセージやテーマに影響はありましたか?

新型コロナウイルスによって社会が変わったという意識がある中で、それを踏まえたメッセージを加えた方がいいのではないかという議論はありました。

しかし彼らが目指しているのは、「2030〜2040年までに社会をこう変えていきたい」という価値創造です。コロナ禍が影響するような目先の1〜2年を見ているわけではないので、伝えるメッセージはブラさないという結論に至りました。

3年かけて一緒にものづくりをしているので、描く未来像をクライアントさんと共有していることは重要なポイントだったと思います。

── MS&ADが目指す未来像を実現していくために、保険会社がリスクを回避するための活動を推進する意義について改めて教えてください。

保険会社は適切な商品をつくるために将来のリスクを予測する必要がありますし、顧客がリスクを回避することは社会的にも、彼らのビジネス的な側面からも一番いいことです。そのため、リスクを回避するための技術を社会に還元しているのです。

どんな社会でも災害や病気、事故などのリスクは何かしら起きてしまうものですが、今明らかになっているリスクや社会課題をひとつずつを回避していくことが大切なんだと思います。

── まさに起こりうるリスクを先読みするために日々研究しているからこそ、できる表現ですね。

また、「保険をかけているからこそ前に進める」という意味合いもあります。そもそも保険は、大航海時代に船乗りたちが海で亡くなってしまうリスクが高かったので、その家族の生活を保障するために生まれたものです。

大航海時代の船乗りたちは、保険があるからこそ勇気を持って海に漕ぎ出していくことができたんです。人が挑戦する勇気を後押しするという意味でも、保険は社会にとって必要な存在なのだと思います。

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