02ホテルの設計と内装デザイン
雨の金沢を最大限に味わえるよう、ハードとソフト双方からデザインされています。共用ラウンジは、金沢のお茶文化を愉しんだり、伝統工芸の体験教室を開催したり、ギャラリーとして機能したりと様々なコンテンツを包括しています。「天下の書府」と呼ばれた金沢を感じることができるよう、多様な書籍を用意したブックスペースも併設。オーダー家具のラウンジデスクは、多様な使い方を想定し、下部にスツールが内包できるよう設計。空間の用途を限定しない可動式とし、様々な取り組みを実施できるよう設計されています。
菱川師宣の浮世絵の雨の線表現からインスピレーションを受けた外部ルーバーは、ランダムな縦ルーバー。雨濡れで知られる東茶屋街の石畳をモチーフにした石材タイルや、 雨つぶをモチーフにしたランプシェード。加賀五彩を参照した色彩設計。全てが雨の金沢を魅力にするためにデザインされています。
金沢の古いお茶屋の導線に慣い、奥まったプライベート空間へ誘われるような基本道線を作っています。閉じられた玄関と合わせて、フロントまでのアプローチは、細いL型の廊下を歩いていく動線となっており、配置されている各アートを感じてホテル内部に入ってもらう計画です。合わせて、中庭や小上がりのある各客室の入り口も全てL型動線となっており、L字型のアプローチは、外部から共用部へ。共用部からプライベートへと入り込む一つの共通した体感儀式として機能させています。
素材を通じた金沢の体感価値にも配慮し、雨の金沢の石畳を想起させる石張りのラウンジのアプローチや、内部ルーバーを始め共通のオーク材に統一した木部。ストーンペイントで施工された壁面は、目の粗い石英によって柔らかな陰影を実現。派手な意匠ではなく、宿泊者が自分ごと化でき、質の高い時間を過ごせるよう配慮しています。認知が広がるまでの来客数が課題となるホテルが多い中、初月から非常に高い成果を出しました。
世界的書道家である紫舟氏の、雨にまつわる立体の書や、書のキュビズム作品。共用部に香るのは、「雨に濡れた石畳の風景を連想させる、瑞々しくも静けさを感じさせる香り」をイメージした、志野流香道第21世家元継承者である蜂谷宗苾氏監修「かおり箱」。その他にも、金沢を拠点に活動するクリエイターチーム「secca」によって、6,130日分の金沢の雨の情報が糸によって表現された作品や、伝統的な金沢和紙と漆によって作られたアートパネル。嫁入りする娘にのれんを持たせ、それを嫁ぎ先の仏間でくぐる「花嫁のれん」という独自の婚礼風習にふれる、加賀のれんや、加賀お国染の風呂敷など、新旧問わず、金沢と雨にまつわる様々な文化体験にふれることができるコンテンツを内包し、それらが互いに干渉しないような空間構成を行なっています。